薄青の星

好きな作品についての感想

壮大なる児童書ユルン・サーガとの出会い

2020年の秋冬は、ファンタジー児童書の『ユルン・サーガ』(浜たかや著・偕成社)にどハマりしておりました。

ユルン・サーガシリーズは中央アジアのような草原を舞台にしたハイファンタジーで、ユルン族という部族を中心に、草原の民たちの戦いを描いています。

 

このシリーズを知ったのは、

中学の図書室にあった『ファンタジー・ブックガイド』(https://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336045645/)にて紹介されていたためです。

 

「人を殺すとオオカミになるデイーイン族」(※作中に登場する部族)というワードが紹介文にあって、衝撃を受けたのを覚えています。

 

なんだよ、人を殺すとオオカミになるって……

 

オオカミ男のように、オオカミの姿をとる種族はファンタジー作品では珍しくありませんが、

変身のトリガーが「人を殺す」ことなのが衝撃的すぎました。

 

このなんか前衛的でシリアスな設定に惹かれて(あと動物好き&シートン動物記ファンなのでそもそもオオカミが好きだった)、

ユルン・サーガ読んでみたーい! と中学生の私は思ったのです。

 

ところがね、残念ながらね……品切れ状態だったのです。

 

『ファンタジー・ブックガイド』に掲載されてる作品は気になるものが多かったのですが、

大変残念なことに、今となっては入手困難なシリーズも多かったんです……悲しいね。

ハイファンタジーとか児童書、ヤングアダルト作品は、よほど大ヒットしない限りはそうなり易いんでしょうか。

 

とにかく、中学生の頃は仕方なく諦め、

確か高校時代に、市立図書館でシリーズ一作目の『太陽の牙』(https://www.kaiseisha.co.jp/books/9784037205409)を見つけて、一気読みしました。

そしてさらに数年経った2020年、ついに電子書籍版を全巻購入しました。

1巻は一度読んだことがあるため、2巻→3巻→1巻→4巻→5巻という謎の順番で読みました。

(ただ、1巻の記憶が薄れていたから、刊行順に読んだほうがよかったかも)

 

正直、電子書籍が普通のテキスト形式じゃなくて、画像みたいなPDFみたいな読みづらい形式だったから、買うのは迷ってたんですよ。

 

でもね、読み始めたら買ってよかったと心から思った!!

 

確かに読みづらくはありますが、iPhone SEでも全巻読破できましたよ! 

てかそもそも品切れの本を電子書籍化してくれただけで本当ありがたい!!

 

偕成社様、本当にありがとうございます!!!

 

 

さて、ここからは1巻の内容にちょっとだけ触れていきます。

 

ユルン・サーガは全5巻構成となっており、巻によって時代は異なりますが、

基本的にはユルン族という部族を中心に、部族間での戦争や支配が描かれています。

 

1巻『太陽の牙』の時代では、ユルン族はデイーイン族という部族と対立しています。

 

ユルン族もデイーイン族も魔法等は使いませんが、

デイーイン族の人間には前述の通り、人を殺すとオオカミに変身するという特質がありました。

 

しかもこの変身、自由自在に人型やオオカミ型になれるわけではなく、不可逆的な変身なんですよ。

一度オオカミに変身したら、死んで遺体になるまで人間の姿に戻れない。

 

この設定、狂ってるな?(褒め言葉)

 

変身する条件も狂ってるけど、戻れないのも狂ってる。

一応、亡くなったオオカミの遺体はデイーイン族のシャーマンが人型に戻すのですが、生きてる間はずっとオオカミなの。家族と言葉を交わすこともできない。

 

敵を殺してオオカミに変身し、オオカミとして戦い続ける

 

それがデイーイン族の戦士の誉れなのです……辛い。

 

実は、私が惹かれたこの設定は、1巻の他には5巻『月の巫女』ラストにしか登場しません。

 

ただし、全巻を通して厳しい運命や惨い慣習が描かれています。

 

どの巻も読み終わると良い意味で暗い気持ちになります。

 

 

その世界観に、まるで現実世界の過去にタイムスリップしたかのようなリアルさがあるのです。

 

ユルン・サーガを読んで、

久しぶりに異世界に飛び込んだ気持ちになれました。

 

どこまでも広がる乾いた草原と、薄暗い森の世界に。